老後はテニプリ老人ホームに入れてくれ
TwitterやLINEで日々推しの話をしながら大暴れしていると、ふと怖くなるときがある。
老後についてだ。
介護施設で働く友人らはしばしば、利用者の方々が口々に高倉健さんを始めとする銀幕スターたちの話を繰り返しすると言っていた。ときにはうっとりと頬を赤らめて、青春時代に立ち帰ったかのようなその反応は実に微笑ましいという。
だがそれは高倉健さんという誰もが知る名優の話だから微笑ましいのである。
現在の私を省みると、20余年前にテニスの王子様に出会って、小学生の頃も、中学生の頃も、高校生の頃も、なんなら大学生になっても、社会人となりなんやかんや3社の会社を股にかけても尚テニスの王子様の話をしている。
このままではいつか耄碌し始めたときに、介護士らに宍戸亮や平古場凛や徳川カズヤの話をし続ける老人になってしまう。
「綺麗な髪をしていたのに悲願の成就のためにその髪を切ったのよ」だとか「日に焼けた肌に金色の髪の毛が良く映えて」だとかだったらまだ可愛いものかもしれないが、絶賛狂乱の最中にある徳川カズヤくんについては、どこをどう切り取っても「命を縮めて空間を削り取り死闘を繰り広げた」だとか「後輩のためにブラックホールを常時発動し続けた」だとか「後輩をかばって腹に光る球を受けた影響で吐血し血染めのジャージのまま試合を続けた」だとかとんでもないワードが乱れ飛び、介護士や他の利用者を恐れ慄かせてしまう可能性がある。
徳川カズヤくんはあんなにも真摯で優しく、情に厚い上に顔が良くてスタイルも完璧な癖に器用貧乏そうで、おそらく実家も太く語学も堪能で、テニスで忙しいのに生徒会長まで務める素晴らしい存在(※私の主観です)なのに、耄碌した私がカズヤくんにとてつもない迷惑をかけてしまう可能性があるというだけでとても不本意である。
なのでできることなら老後は理解のある人々に囲まれながら往生したいと思っている。つまり、介護士も利用者もテニプリのオタクであってほしいということだ。
ということで、私の理想の老人ホームについて話をしたい。
※これ以降は建築に関してズブの素人が間取りメーカーを使ってなんとか拵えた間取り図を用いて説明します。もし建築に明るく、私のこの、テニプリ老人ホームという狂った遊びにお付き合いいただける方がいましたらぜひご連絡ください(は?)。
★民間グループホーム(看取り対応あり)
2ユニットでのグループホームになるので、基本的に1階と2階の間取りは同様のもの。1ユニットあたり6名なので、あまり大掛かりな施設ではない(それはそう)。
いや、別に3階建てでも良いんですけどね。
玄関は一般的な家屋よりも大きめの作りを想定。屋内では自立歩行でも外に出るに当たり不安が大きい方は車いす等利用するかと思うので、車いすへの乗り換え等も考え、広めの三和土になっている。
扉は基本的に折戸を採用することで開口部が広く、介護職員にも使い勝手が良い作り。これで仮に車いすや歩行器生活になってもトイレ、入浴介助も受けやすくなると思う。また、トイレの数も1フロアにつき3つと多め。介助で時間のかかることも多いと思うので、トイレのタイミングが重なっても不安がない作り。
リネン類は勿論のこと、介護施設ではタオルなどもフル回転することは想像に難くないので、洗濯機は1ユニットにつき2台用意。リネン類がフルで回っていても、不測の事態に備える。
オタクが揃うとどうせひとりでは過ごさないと思うので、ベッド、文机、テーブル、椅子、箪笥のみのシンプルな作りをした居室。必要なものがあれば各自持ち込んでくれ。壁中にポスターやタペストリーを貼っていただいてもOK。箪笥の上にアクスタを並べろ。推しのユニフォームを飾れ。
特筆すべきはリビングルーム。
リビングルームの本棚にはもちろんテニスの王子様/新テニスの王子様全巻を備えてもらいたい。テニスの王子様文庫版/テニスの王子様完全版などもあると尚良い。老眼の我々が文庫版を楽しめるかはわからないが、ないよりあった方が良いので置いてもらいたい。できれば各3セットあると取り合いにならなくて良い。電子版もタブレット等で準備があると、ルーペを使わずに推しを拡大して見られるので嬉しいと思う。
リビングルームのテレビは各種配信サービスに加入済み。DVD/Blu-rayの再生機器も用意。これで存分にアニメ本編やテニフェスの円盤なども楽しめる。きっとこのホームにお世話になる頃には目も霞んで禄にピントも合わないだろうから、一周回って初期アニメの作画崩壊も楽しめるような気すらしてきた。
またこたつを囲んで和気あいあいとテニラビを楽しんでも良い*1。高齢者の認知症予防には指先のトレーニングなども含まれているので、きっとテニラビを叩いていればボケ防止にもなるだろう。その頃にはもうExpertモードなど叩けもしないのだろうが……*2。
シアタールームも用意。防音室となっているので、応援上映や、我々オタクにありがちなでっっっっっっっけえ独り言をどれだけ言っても問題なし。棲み分けをしたいコンテンツ*3の上映はこちらで。
ぶっちゃけた話、シアタールームや図書館などを備えた高齢者住宅というものは、M井不動産系列やN村不動産系列のハイクラスシニアレジデンスなどでいくらでもあるのだが*4、一番重要なポイントは、看取り対応ありということだ。
正味いつ死ぬかわからないご時世*5ではあるが、もしも介護施設などにお世話になれるくらいにまっとうに生き延びたのだとしたら、どうせなら最期は推しの顔を見ながら息を引き取りたい。
欲を言えば、テニミュで推しのハチャメチャな日替わりネタを浴び、笑いすぎてそのまま心臓発作を起こして死にたい。
それが新規のネタでも、円盤が擦り切れるほどに見たネタでも構わないのであるが、そんなことを一般的な介護施設でお願いしても
「は? こいつ耄碌しすぎやろ(どうされました?)」
と言われてしまうのは火を見るより明らかだ。本音と建前が逆になった介護士や看護師を誰も責められないレベルの戯言なのだ。
だからこその、利用者も介護士もテニプリのオタクであってくれというこの願い。
今のお年寄りたちが延々と高倉健の話をするように、私だって死の間際まで宍戸亮や平古場凛や徳川カズヤの話がしたい。ていうかもう原作1巻から既刊までの話を一生していたい。大学時代にテニスの王子様を未履修の友達に1~42巻の試合すべてを空で解説したくらいなのだ、きっといつまでたっても試合のスコアまで思い出せる。ドリライの通路席で私の隣を誰が駆け抜けていっただとかも永遠に擦りたいし、オタク同士で歌詞の解釈を永遠に語り合っていたいし、野鳥の会をしすぎて見逃した他のキャストのリアクションを補完してもらわないとテニスの王子様というコンテンツは完成しないのだ。
それが許される環境に一生身を置いていたい。イーロン・マスクがTwitter社を買収したが、今その場となっているTwitterが一生あるとは限らない。
どれだけデジタルだなんだと言われても老いていく私の身体をどうこうしてくれるのは人の手なのだ。年々薄れていく人との繋がりを、テニスの王子様が繋ぎ止めてくれたらどんなに嬉しいだろうか。
とりあえず私が死ぬときもテニミュはやっていて貰わないと困るので、100周年で古典芸能扱いされるまで走り続けてくれ。
あと、私達が年老いたときに介護してくれるのは我々よりずっと若い世代なので、彼ら彼女らの中にもしっかりテニスの王子様が根付いていくように、私の残りの寿命を半分差し上げても構いませんので*6、許斐剛先生におかれましては、何卒お身体ご自愛の上、なるべく長く漫画を、というかテニスの王子様を盛り上げていただければと存じます。